今回は、バスケットボール漫画「黒子のバスケ」に登場する「ゾーン」という状態を理論的に解明しつつ、現実の仕事や勉強に活かすための方法をお伝えします。

黒子のバスケに登場する「ゾーン状態」は現実にも起こり得る

マンガ、「黒子のバスケ」に登場する「ゾーン」という状態。
それは、「パワー・スピード・正確さなど、さまざまな能力が大幅にアップした超集中ドーピング状態」のようなものとして紹介されています。

第43Q 負けるかよ

このゾーン状態、実はマンガの中の特殊能力ではなく、似たようなことが現実にも起こり得ています。
(さすがに、瞳孔から光の筋のようなものは出ませんが)

スポーツ経験者の多くは体験したことがある「ゾーン状態」

ゾーンは、(バスケットに限らず)スポーツをやってきた人の中には経験をしたことがある人が多くいます。

例えば、試合中のシュートの成功率が100%に近くなったり、どれだけ走りこんでも、体力の消耗や疲労を感じることなくフルで動き続けられたり。

多くは、「接戦で残り時間が少ない」「適度な緊張状態にある試合中」などの、非常に集中している状況下で起こります。

たとえば以下の映像は、2004年12月9日、NBAのトレーシー・マグレディ(Tracy McGrady)選手が、誰もが「負け試合となる」と思っていた試合を残り33秒から13得点し、逆転勝利した時の映像です。

NBAでは、こういったスーパープレイが起きている時、解説者が興奮とともに「He is Zone.」と言っていたりします。

ちなみに、黒子のバスケでは「ゾーンが切れた時に体力が著しく奪われる」としていますが、実際のゾーンは体力の消耗を感じません。
(作者もこれは理解しており、マンガ的に盛り上げるためにわざとそうしたとオフィシャルファンブックの書籍内(P.232)で語っています)

ゾーンは心理学者チクセント・ミハイが提唱した「フロー理論」のこと

では、この「ゾーン」を、もう少し学術的な観点から見てみましょう。

現実の世界では、ゾーンは、アメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」にあたります。

フロー (英: Flow) とは、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態をいう。
ZONE、ピークエクスペリエンスとも呼ばれる。

心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱され、その概念は、あらゆる分野に渡って広く論及されている。

フロー(心理学)

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ミハイ・チクセントミハイは、スポーツ、芸術、宗教などの幅広い領域で、その道の一流の人たちが「集中したときに特有の状態に入る」という共通の体験があることを契機に、この状態の理論化を試みました。
(もちろん、その状態はチクセントミハイ自身が発見したワケではなく、上記の共通体験をもつ人達には古くから知られていることでした)

フロー状態の8つの構成要素

チクセントミハイが提唱した「フロー状態が生まれる条件」には、下記の8つの構成要素があります。

  1. 達成できる見通しのある課題で、能力とつりあった挑戦である
  2. 専念・集中している
  3. 明瞭な目標がある
  4. 直接的なフィードバックがある(即座な反応)
  5. 意識から日々の生活や欲求不満を取り除く無理のない没入状態である
  6. 自分の行為を統制しているという感覚を伴う
  7. 自己についての意識の低下・消失状態(活動と意識が融合)
  8. 時間の経過の感覚が失われる

フロー状態の入りやすさには、個人差もあるため、必ずしも上記の要素すべてが必要というわけではありません。

また、個人差という観点から「1.達成できる見通しのある課題で、能力とつりあった挑戦である」においても、以下のように個人の能力レベルに応じて、フロー状態に没入できる課題の難易度が変わります。

フロー状態になる条件

つまり、その人にとって簡単すぎる課題(弱すぎる相手)や、逆に難しすぎる課題(強すぎる相手)では、フロー状態になりにくいことを表しています。

黒子のバスケでは、ゾーンに入るための条件に「優れた資質」や「バスケが好きであること」が挙げられていました。
が、現実には、ある程度の練習量や経験を積んでいれば「優れた資質」は必要なく、誰にでも起こりえます。

また、「バスケが好き」っていうのは、好きでなければやりませんので、要は真剣に取り組んでいるかどうかが大事ということですね。

ゾーン(フロー)を仕事や勉強で活用するために

最後に、ゾーン(フロー)を理解した上で、自身の仕事や勉強で活用するための方法を紹介しておきます。

前述のとおり、ゾーンに入るためには、「能力とつりあった挑戦である」ことが必要です。
なので、一度クリアした仕事や覚えた業務というのは難易度が下がってしまっており、この条件を満たしにくくなります。

そのため、何らかの「自分にとって新しい、または少し難しい課題設定をして挑戦する」必要があります。
(例えば、慣れてしまった仕事に「厳しめの時間制限」を設けたり、「数値目標を設定する」と良いかもしれません)

加えて、前述の「8つの構成要素」とともに絶対に必要な条件が、以下にあるように「他者に妨害されない環境」です。

電話がかかってきたり、だれかが部屋に入ってきたりといったいかなる妨害であっても、おそらくフロー経験から引きずり出され、それに対応するモードに移行してしまうだろう。

フロー(心理学)

もちろん、フロー状態に入ってしまえば雑音は気にならなくなるものですが、電話や話しかけられることは、さすがに無視することはできません。

また、いったん途切れてしまったフロー状態を再開させるのは難しく、再度フロー状態になるまでには時間がかかってしまいます。

なので、可能であればフロー状態になりたい時は個室やカフェなどの、なるべくジャマされない環境に身をおくことが第一といえます。

ちなみに、ローズマリー・シナモンなどのハーブの香りの他、薄暗いオレンジの照明などは、集中力を高めるのに向いているといわれています。

カフェで妙に仕事が捗ったりするのも、ゾーン(フロー状態)に入りやすい環境になっているからかもしれません。

まとめ

  • 「ゾーン」とは、スポーツ以外でも起こりえている「フロー状態」のこと
  • 勉強中や仕事中にフロー状態になれるよう、フローに入る条件を理解して活用しよう
  • 「フローに入っているな」と感じる人がいたら緊急時以外はなるべくジャマをしない
参考書籍
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