コラム 考えるツボ

ラジオ

カモノハシ

はーい。勉強熱心なビジネスパーソンの皆さん、こんにちは。
「MMRラジオ」のお時間です。
今回のお悩みは、都内広告会社に勤める29歳男性の方からの投稿です。

広告プランナーをしています。
企画会議の時、アイデアを事前に考えて発表しているのですが、いつも上司に「もっと良い案は無いかね?」と返されてしまいます。
良いアイデアをたくさん出すコツみたいなものってあるんでしょうか?

都内広告会社勤務 29歳 男性 K.Sさん

カモノハシ

うーむ、これはなかなか難しい相談ですよ。
「アイデアを出すコツ」ですか~・・・

コアラ

・・・オイ。
今度はいったい何を始めたんだ、カモノハシよ。

カモノハシ

あ、コアラ先輩!

いやー、ボク達の会社のルールで「20%ルール」ってあるじゃないですか?
勤務時間のうちの20%は業務と関係ないことをしていい”っていう。

なので、普段の業務とは全然関係ない「ビジネスパーソンのお悩み相談室的なネットラジオ」をはじめてみたんですよ!
いわゆる、イノベーションっす!

コアラ

・・・自由でイイな。
(いきなり隣で始められてウルサイのだけれど)

彼らは、とある不思議な組織「ズーズル」に所属するマーケティングミステリー調査班(通称MMR)
MMRはこの世の中にある、“成功している企業のマーケティング”を調査・解明するのが主な仕事なのだが、飽きてくると仕事にかこつけてヘンなことをやり始める。

MMR

カモノハシ

毎週のように自己啓発セミナーに通う、自己投資に余念が無いアニマル系社員。
まだまだ自分で思考する力は足りていないが、物事をポジティブに捉え、すぐ行動に移す愚直さをもっている。

コアラ先輩

カモノハシの先輩で理屈屋、朝の血圧低い系。
後輩であるカモノハシによく毒づくが、実は彼の「とにかくポジティブなメンタリティ」に触れて、元気を分けてもらうのが日々の習慣になっている。

カモノハシ

で、この悩める広告マンの相談なんですが、“アイデアを出すコツ”ってあるんですかね?

コアラ

それ、オレに聞くのか。
というか、まずはこの上司、前提としてサイモンの「限られた合理性」を理解しておくべきだ。

カモノハシ

サイモン・・・
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム・・・」ってやつですか?

コアラ

それ、悪魔くんの“ソロモン”の呪文な。
(お前、何歳だよ)

サイモンの「限られた合理性」とは

サイモン(ハーバート・A・サイモン)は、生物学や認知心理学などの幅広い知見をもち、組織論を中心とする経営学の分野で多くの功績を残した政治・経営学者。
1978年ノーベル経済学賞受賞。

サイモンは、「“最良の案”は定義できるのか?」「そもそもそんな案が存在するのか?」を理論的に説明することはできないとし、まず「意志決定はいかにして行われるべきかを認識する」のが重要だと、以下2つの理論を用いて説いた。


  • 百人百様というように、人の価値観はそれぞれ異なっているので、すべての人の価値基準に合うアイデアは存在しない。
  • また、そのアイデアを出すのに関わる”すべて”の情報についても、どれだけが”すべて”であるか分からないので、”すべて”の情報を収集することは不可能である。

これら2つの理論から、サイモンは「限られた情報や選択肢の範囲内で満足できる案を選ぶこと」が、組織における意志決定の本質であると説き、この限られた情報や選択肢のことを「限られた合理性」と呼んだ。

新版 経営行動―経営組織における意思決定過程の研究

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コアラ

だから、この上司の「もっと良い案は無いのか」ってセリフは、サイモンのいう”定義すらできない、ありもしない最良のアイデア”を見つけ出そうとしているってことだ。

「限られた合理性」を理解せずに、こんな発言をしてしまうこと自体、ナンセンスだと気付くべきなんだよ。

カモノハシ

・・・いやはやごもっともですよ!

でもね、そういう小難しいことを上司が理解していたら、Kさんはこんな相談してこないんですよ!

世の中、正論だけじゃ乗り越えられないんです!
上司と過去は変えられないんですから、Kさんと未来を変えるしかないんですよ!

コアラ

・・・
(妙な説得力があるが、なぜオレが責められているんだ)

カモノハシ

だからね、Kさんのためにいますぐできる「打ち出の小づち」的なアドバイスが欲しいんですよ!

“聞き流すだけでヒンドゥー語がペラペラになりました〜”みたいに、“散歩するだけでアイデアが無限に湧いてきます~”的なキャッチフレーズのヤツ!

コアラ

そんな都合のイイ方法があったら、世の中の企画屋はみんなヒットメーカーだろ・・・

コアラ

、でも、まさしく“散歩する”のはいいね。
誰でもカンタン、スグできるし。

散歩

カモノハシ

え、そうなんですか?
(さっきの“散歩するだけで”って、テキトーに言ったんだけど)

コアラ

散歩・・・つまり、「歩いている時」は、座っている時よりもアイデアが多く出るという研究結果がある。

歩いている時はアイデアが60%多く浮かぶ

2014年4月にスタンフォード大学で行われた実験によると、人間は座っている時よりも歩いている時の方がアイデアが浮かびやすいことが分かった。

この実験の内容は、学生に屋内および屋外で、座っている時と歩いている時にナイフなどの“道具の使い方”を複数考えさせるというもの。
(たとえば「バターを塗る・パンを切る・人を指すなど」)

座っている時と歩いている時の、どちらの状態がよりアイデアが浮かぶか計測したところ、8割以上の学生において「歩いている時」の方が平均60%アイデアが多く浮かび、少なくとも1つ以上は、斬新で創造的なアイデアを考えつくことができた。

Stanford researchers found that walking boosts creative inspiration. They examined creativity levels of people while they walked versus while they sat. A person’s creative output increased by an average of 60 percent when walking.

Stanford study finds walking improves creativity | Stanford News

カモノハシ

へぇ~、ちゃんと研究されてたんですね。
でも、なんで散歩してる時の方がアイデアが出やすいんですかね?

コアラ

歩くことで血流が良くなるとか、様々な情報が目に入ってくるからとか推測されてはいるが、オレの考えでは根本的な理由として「集中できない状況になり脳が揺らぎやすいから」だと思っている。

カモノハシ

脳が揺らぎやすい・・・?
どういうことですか、それ?

コアラ

・・・ちゃんと説明するとなると、少し長くなってしまうけど、いいかな?

カモノハシ

あ、長くなるなら結構です。

コアラ

聞けよ。

脳が揺らぎやすい≒アイデアが出やすい?

「脳が揺らぎやすい≒アイデアが出やすい」とは、どういうことか?

これを説明するためには、そもそも「アイデアはいかにして生まれるか」について理解する必要がある。
まずは、以下の内容を読んでみてほしい。

1980年代、アメリカのベンジャミン・リベットという学者により、ある実験が行われた。

その実験の内容は、被験者に「好きなタイミングでボタンを押して良い」と伝え、脳の活動がどのように行われるかを測定するというもの。

自由意思

当然、脳の中では以下の順番で活動が起きるだろうと考えられていた。

  1. 「体を動かすプログラム」をする脳部位が活動する
  2. 「指でボタンを押せ」という指令が送られる

しかし、実際の結果は違った。

「ボタンを押そう」という意志が生まれる0.5秒~1秒ほど前に、すでに“体を動かすプログラム”をする脳部位の「運動前野」が、ウォーミングアップを始めていたんだ。

・・・つまり、実際には以下の順番で活動が起こっていたことになる。

  1. 「体を動かすプログラム」をする脳部位が活動する
  2. 「指でボタンを押せ」という指令が送られる

これは、衝撃的な事実だ。

なぜなら、意志が生まれる前に脳がすでに活動していたということは、とどのつまり「ヒトには自分の“自由意志”というモノが無いのではないか?」という問題になるから・・・。

そしてさらに2005年、科学誌サイエンスに「ヒル」による実験結果が掲載される。
ヒルは人間と違って、単純な脳をもっているので標本としてはうってつけらしい。

ヒル

実験の内容は、以下の通りだ。

ヒルの体を触ると、ヒルは「シャーレの底を這って逃げるか」「泳いで逃げるか」の二通りの逃げ方をする。
どちらの逃げ方をするのか、“脳の中でどのように意志決定しているのかを調べる”というもの。

そして実験の結果、ヒルがどのように意志決定しているかが判明したんだ。

なんと、ヒルが“泳いで逃げる”か、“”這って逃げる”かどちらを選ぶかは「たまたま」で、そこにヒルの意志というものは存在しなかった。

どういうことか説明しよう。

まず、神経細胞には電気活動として「ゆらぎ」が存在する。
システムというのは理由も原因もなく、存在するだけで揺らいでいるんだ。

このゆらぎによって、細胞膜には「電気が溜まっている状態」と「溜まっていない状態」が存在する。
そしてヒルは、“ある神経細胞”に「たくさん電気が溜まっている時」は泳いで逃げ、「溜まっていない時」は這って逃げる。

・・・それだけだったんだ。

つまり、刺激を受けた時、神経細胞がどんな状態かによって、ヒルのとる行動が決まっていたんだ。
決して、「這って逃げるぞ!」「泳いで逃げるぞ!」という意志が、先に生まれていたワケではなかったんだ。

【参考】マインド・タイム 脳と意識の時間 ━ ベンジャミン・リベット
【参考】脳は何かと言い訳する(P.143-)━ 池谷 裕二

・・・と、これらの実験結果では、「ヒトの意思」というもの自体が、脳の中の電気活動のゆらぎによる「偶然の産物」であることを示唆している。

ということは、「アイデア」もヒトの意志と同じく「出そう」と思って出ているものではなく、脳がゆらいだ結果、たまたま生まれているものだと考えられる。

だから、散歩なんかをして、集中できない環境に身をおくことで、脳がより揺らぎやすくなり、アイデアという「偶然」が生まれやすくなるんじゃないかってことさ。
(その「偶然」を採用するか、ノイズとして捨ててしまうかは自分次第だが)

カモノハシ

な、なるほど・・・。

コアラ

あと、アイデアの「質」に関しても、集中できない環境に身を置いた方が良い結果になったという事例がある。

整頓された部屋より、散らかった部屋に居る方が創造的なアイデアが生まれる

ミネソタ大学マーケティング学教授のキャサリーン・ヴォーズは、創造性に関する実験を行った。

その実験の内容は、48名の被験者を“デスク・床に紙やペンなどが散らばった部屋”と“整頓された部屋”に入れ、「ピンポン球の新しい使い方」を考えてもらうというもの。

結果をまとめてみると、散らかっている部屋の乱雑な机で試験をした被験者28名は、片づいた状態の人よりも「創造性が高かった」。

創造がひらめく「片づけない」魔法|WIRED.jp

カモノハシ

アイデアの数だけでなく質も、「集中できない状況」の方が勝ったんですね・・・。
そういえば、マンガ編集者とかクリエイティブな職業の人の机って、テレビでたまに見ますけど、結構汚いですもんね。

散らかった机

コアラ

確かに、そういう傾向はあるだろうね。
ただし、正確性やスピードが必要な業務をする際は、気が散らない環境の方が良いに決まっているから、常に散らかっているところで仕事をしているワケじゃないだろうね。

ということで、ここでアイデアを出す時のポイントをまとめてみましょう。

まとめ

  • アイデアを出す時は「限られた合理性」を理解する
  • 集中できない環境に身をおく方が脳がゆらぎやすく、質の高いアイデアが多く出せる
  • 正確性やスピードを必要とする業務の際は、気が散らない環境の方がいい

もちろん、脳を揺らぎやすくすることだけでなく、普段から「知識や情報を得るのを意識する」ことも大事でしょう。

持っている知識や情報が多ければその分、高い質のアイデアを多く出せる可能性があがります。
アイデアを出すためのフレームワーク(手法)については、以下の記事も参考にしていただければ幸いです。

また、協力してくれる人がいれば、“アイデアを出すこと”を目的として時間をとり、複数人でブレスト(ブレインストーミング)するのも効果的でしょう。

他人と会話することでより脳がゆらぐ可能性がありますし、複数のアイデアが化学変化を起こし、新たなアイデアが生まれることもあります。

カモノハシ

・・・よーし!

じゃあ、ボクももっとイノベーションを起こすために、さっそく外に行ってフラフラしてきま~っす。

コアラ

・・・オイ。
そうやってデスクの掃除ができないズボラさを正当化したり、サボるための口実にするんじゃないよ。

・・・って、もう行きやがった。

ラジオ

コアラ

・・・

 

コアラ

以上、「MMRラジオ」よりコアラがお送りしました。
自己研鑽に熱心なビジネスパーソンの皆さん、また次回お会いしましょう。

コアラ

エロイムエッサイム・・・エロイムエッサイム・・・・
我は求め訴えたり!

出でよ、脳筋系アニマル社員カモノハシを連れ戻すアイデア!

今回の参考資料

書籍

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