あなたは、普段の仕事の中で「マーケティング」という言葉をどのように使われているでしょうか?
恐らく、状況によってリサーチ、セールス、顧客の育成といった意味で使われていることが多いかもしれません。
他にも、ピーター・ドラッカーは、究極のマーケティングとは「売ることを必要としないこと」とたとえました。
このように、“使う状況、使う人により意味が変わってくる”といえる「マーケティング」という言葉は、本来どんな「定義」だったのでしょうか?
この記事では、『そもそもマーケティングの定義って何?』と感じている人に、その言葉の定義と変遷の歴史をお届けしたいと思います。
「マーケティング」という言葉の誕生とその歴史
本来、「マーケティング」とは、市場の仕組みそのものを示す概念のため、冒頭で挙げたものはすべて「マーケティング」に含まれます。
では、この言葉が使われはじめたのはいつ頃からだったのでしょうか。
「マーケティング」という言葉の誕生
「マーケティング」という言葉が最初に使われたのは、1902年、ミシガン大学の学報といわれています。
次いで1905年には、ペンシルバニア大学で「Marketing of Product」という講座が開設されました。
この頃、ゴールドラッシュや西部開拓の時代が終わり、アメリカ全土が対象となる市場が形成されはじめ、その後大恐慌がおこりました。
大量生産や過剰生産が大恐慌の原因にあったことから、マーケティングの必要性が問われはじめたのがキッカケと言われています。
その後1937年、シカゴに「アメリカマーケティング協会(AMA)」が設立され、世界のマーケティング研究の中心的機関となりました。
ちなみに、日本では1955年に日本生産本部(経産省管轄の財団法人)のアメリカ視察団が帰国した後、「これからは我が国もマーケティングを重視すべき」としたのがはじまりだそう。
そんなアメリカマーケティング協会(AMA)が定義した「マーケティング」は以下で、これまで過去3回改定されています。
1985年 策定 マーケティングの定義
Marketing is the process of planning and executing the conception, pricing, promotion and distribution of ideas, goods and services to create exchanges that satisfy individual and organizational objectives.
(和訳)
マーケティングとは個人と組織の目的を満足する交換を創造するために、アイデア、商品、サービスに関する概念形式、価格、プロモーション、チャネルを計画し統制するプロセスである。
最初の定義では、「マーケティング」はいわゆるフレームワークの4P(Product:商品、Price:価格、Promotion:プロモーション、Price:プレイス/チャネル)をベースとしていることが分かります。
19年後、この最初の定義が改定されます。
2004年 改訂 マーケティングの定義
Marketing is an organizational function and a set of processes for creating, communicating, and delivering value to customers and for managing customer relationships in ways that benefit the organization and its stakeholders.
(和訳)
マーケティングとは組織的な活動であり、顧客に対し価値を創造し価値についてコミュニケーションを行い、価値を届けるための一連のプロセスであり、さらにまた、組織及び組織のステークホルダーに恩恵をもたらす方法で、顧客関係を管理するための一連のプロセスである。
2004年は、日本でも個人世帯のインターネット普及率は80%を超えてきた頃。
そのため、「顧客関係」や「コミュニケーション」という、より“人との繋がり”を感じさせるような言葉が加わったのが特徴的です。
さらにこの3年後、再び定義が改定されることになります。
2007年 改訂 マーケティングの定義
Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
(和訳)
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のあるオファリングス(提供物)を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
ターゲットに「社会全体」が加わり、よりシンプルな定義になりました。
(しかしその分抽象度が上がり、この一文だけでは理解しづらくなった様にも感じられます)
このように、アメリカマーケティング協会による「マーケティング」の言葉の定義は時代とともに変わってきました。
その根底には、企業の市場に対する考え方である「マーケティングコンセプト」が、同様に変遷してきたことがあります。
企業の市場に対する考え方「マーケティングコンセプト」の変遷
- 1. プロダクト志向
- 顧客や市場と関係なく、「はじめに製品ありき」の考え方。
「シーズ志向」「プロダクアトアウト」とも呼ばれる。 - 2. 販売志向
- 消費者は放っておいても製品を買うことはないため、攻撃的な販売やプロモーションをしなければならないという考え方。
- 3. 顧客志向
- ターゲット市場を絞り、顧客の観点からニーズを掴んでいく考え方。
「マーケットイン」ともいわれる。 - 4. 社会志向
- 顧客志向に加えて、企業の社会的責任や社会貢献という形でもマーケティングをとらえる考え方。
上記1〜4の変遷をざっくりいえば、下記のようになり、まさしく時代に即して変わってきていることが分かります。
宣伝したが売れなくなり、顧客が本当に必要なもの・必要なことを見極めるようになった。
さらに、必要なものが顧客に満たされた時、企業そのものの姿勢を良く知ってもらうよう、社会への貢献を含めて考えるようになった。
ただ、4.の社会志向についてはまだまだ日本の企業では実感が少ないかもしれません。
しかし、世界では割と標準的になっていて、たとえばドイツでは「ボランティア経験が不足している」と判断された大企業の経営者が株主総会で糾弾されたりします。
また、アメリカの多くの大企業には「Matching Fund」という基金が設けられていて、社員が寄付をした公共団体や施設に、会社が社員と同額の寄付をするという制度があります。
【参考】 遊ぶヤツほどよくデキる!(大前研一) P.270-もちろん、上記は各国の文化や風土に根付く部分も多いため、一概にマーケティングコンセプトだけの話ではないかもしれません。
(例えば、ヨーロッパ社会では、“高い地位や身分には相応の責任・義務がある”とする「ノブレスオブリージュ」という考え方が根底にある)
しかし、日本企業も今後生き残りのためには、こういった考え方や制度を設け、時代に即した変化を求められていくのではないでしょうか。
ちなみに、2010年以降、社会志向よりもさらにその先にある「マーケティング3.0」や「マーケティング4.0」という概念が提唱されています。
これは、経営学者フィリップ・コトラーにより提唱されたもので、企業と消費者の垣根は下がってきており、“ともに製品や市場を創造していく関係性になる”という考え方です。
(一言で表すのはなかなか難しいので、詳しく知りたい方は以下の書籍を参考に)
コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
ということで、最後に少し話がそれてしまいましたが、「マーケティング」の定義と、その変遷の歴史をお伝えしました。
結局、「時代とともに変わっていくこと」こそが、マーケティングの本質といえるのかもしれません。
個人的に、アメリカマーケティング協会の2007年の定義はなかなか単語が多く抽象的な内容と感じましたので、自分なりに「マーケティング」を言い換えてみると、以下のようになりました。
マーケティングとは企業が利害関係者(ステークホルダー)に対して行う有益な活動のすべて。
『有益な活動のすべてってなんだろ?』と思った方へ、ある本にちょうど、おあつらえ向きと思う箇所がありましたので引用しておきます。
- 電話に出るときもマーケティングだ。
- メールを送るときもマーケティングだ。
- あなたの製品が使われるときもマーケティングだ。
- ウェブサイトで使う言葉もマーケティングだ。
- もしソフトウェアを作ったら、エラーのメッセージもマーケティングだ。
- もしレストランを経営していたら、ディナー後のミントもマーケティングだ。
- もし店を経営していたら、レジのカウンターもマーケティングだ。
- もしサービス業ならば、請求書もマーケティングだ。
小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則
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