マーケティング業務をしている人には割と常識的に知られている、以下二つの理論があります。


  • ロジャースの「新製品の普及過程理論(イノベーター理論・普及学)」
  • ジェフリームーアの「キャズム理論」

常識的に知られているだけあって、これらの理論の内容を解説した記事は、ググればたくさん出てきます。

ただ、この理論の中に登場する「数字の根拠」が個人的に気になっていたのですが、それをしっかりと記載しているものはありませんでした。

あらためてその根拠を調べたところ、意外な事実が判明したので紹介します。

ロジャースとムーアの理論のおさらい

まずは各理論を軽くおさらいします。

ロジャースの新製品の普及過程理論(イノベーター理論・普及学)

ロジャースの「新製品の普及過程理論」は、イノベーター理論や普及学とも呼ばれる、新しい製品やサービスが消費者にどのように普及していくかを以下のようにモデル化したものです。

ロジャースの新製品普及過程理論

種別の名称 割合と傾向
革新的採用者
イノベーター
(Innovator)
全体の2.5%に該当する。
常に新しいものに挑戦し、独創的・個性的な人と言われる。
もっぱら情報収集は専門書や他のイノベーターとの交流で、大衆からは変わり者とされる事も多い。
初期採用者
アーリーアダプター
(Early Adapter)
全体の13.5%に該当する。
アーリー・アダプター(初期採用者)には、オピニオン・リーダー的な性格(今で言うインフルエンサー)を持つ人が多く、交際範囲が広いため周囲に大きな影響力を持つ。
イノベーターが提案する新しい文化や新しい商品に即座には飛びつかず、社会的評価などを考えてから採用する。
前期大衆
アーリーマジョリティ
(Early Majority)
全体の34%に該当する。
新しいものを採用する時は「他の人がついてこなかったら恥ずかしい」。
かといって、古いものを捨てる時「取り残されるのも恥ずかしい」ので、常に真ん中あたりで行動するタイプ。
後期大衆
レイトマジョリティ
(Late Majority)
34%に該当する。
変化に対して自分が当事者になることには尻込みをするタイプで、製品やサービスが広く普及されてからでないと採用しない。
慎重で無難であることを信条とする。
採用遅滞者
ラガード
(Laggard)
全体の16%に該当する。
新しいもの好まず、自ら新製品を購入することは少ない。
変化には鈍感というよりは無関心に近い。

ロジャースは、「イノベーターとアーリーアダプターは合わせて全体の16%程だが、アーリーアダプターの中にいる影響力の強い存在(オピニオンリーダー)により、以降のアーリーマジョリティへ広がり製品は爆発的に普及していく」と説いています。

※ちなみに、ロジャースはレイトマジョリティとラガードは知性と意欲に欠けるから低所得化すると書いていましたが、後年指摘を受けて少し修正したようです(どれが賢くて、どれが愚かということとは関係がなく、あくまで取る行動が違うということ)。

また、一見いちばん遠いイノベーターとラガードには似ている点があります。
それは、両者とも世間の目を気にせず、どちらも自分達の好きなことをやっているということ。
つまり、イノベーターとラガードが製品によっては入れ替わることも充分に考えられます。

ムーアのキャズム理論

1991年、前述のロジャースの理論をベースにキャズム理論を提唱したのが、マーケティングコンサルタントであり投資家の「ジェフリー・ムーア」。

ムーアは、“ハイテク分野の製品に限っては”アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に、谷となるキャズム(Chasm)が存在すると唱えました。

ムーアのキャズム理論

ハイテク分野においては、この谷を越えることが市場全体に製品を普及させるための最大のポイントであると説いています。

・・・と、それぞれの理論名でウェブ検索すれば同様の解説は前述のとおり、たくさん見つかります。

ただ、疑問に思っていたのは「各層の割合(パーセンテージ)ってどんな根拠から導きだしたんだろう?」ということ。

各モデルの割合(パーセンテージ)の根拠って何なの?

そこで、書籍イノベーション普及学を購入して読んでみようと考えていたところ、これらの数字の根拠について、同じように疑問をもった方の記事を発見しました。

これってどういう根拠で分類されてるんだろう、と思って原典の『イノベーション普及学』を図書館で借りて来たんだけど……えっこれでいいの? と思った。
(中略)
先ほど僕はロジャースが「試行(トライ)するごとに学習される量は、次の事柄に比例する。(1) すでに学習された量。(2) 学習限界に達する前に、未学習のまま残されたものの量。」という仮定を置いたにも関わらず、唐突に正規分布を持ち出していることを指摘した。
ロジャースは自分で書いてる式やグラフの意味を理解してないのではないか?

ロジャースのイノベーター理論ってこれでいいの?

・・・どうやら、説明にちぐはぐな点があるようで、納得できる答えは得られなかった模様です。
また、自分でも偶然、別の書籍で以下のような内容を発見してしまいました。

第一種が2.5%、第二種が13.5%存在するというが、その数字の根拠は何かである。
ロジャースはその後スタンフォード大学の教授になるが、そのときに書いた本ではこの数字に深い意味はないとしている。
100人のうち2人か3人は珍しいもの好きの変わった人がいるという程度の意味らしくて(略)

「すぐに未来予測ができるようになる62の法則」P.29 第1章「普及率」の法則より

イノベーター理論の根拠
(※その時の自分の気持ち)

・・・という訳で、「有名な理論だから」と疑問を持たずに丸暗記するだけでなく、その理論から自分なりに「何を読み取るか」「自分の仕事にどう活かせるか」を考えるのが大事なのかもしれません。
※結局、自分ではまだ原典は読んでいない(棒)

ちなみに、引用した書籍「すぐに未来予測ができるようになる62の法則」は、USJを再建した森岡毅さんの書籍の中で「USJのマーケターは全員読んでいる」と紹介されていたことから購入したのですが、随所に出てくる見解が大変勉強になりました。オススメです。

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