組織で働く以上、人の能力や成績を評価すること・されることは避けられません。
「人を評価すること」を専門用語で「人事考課」といいます。

この「人事考課」には、人が人に対して行う以上様々な問題がついて回ります。

今回は、そんな人事考課の問題のまとめとともに、「人が人を評価する時、いかにバイアスにかかりやすいか」「回避するためにはどうすればいいのか」といったことをお伝えします。

完璧な人間が存在しない以上、完璧な評価も存在しないのですが、今回紹介する知識を持っておくことで、不公平感のある評価を減らすことはできます。
できるリーダーと言われるためにも、人事考課の際には、ぜひこのまとめを見返してもらえればと思います。

人事考課に生じる6つの問題

人事考課に生じる問題は、原因の多くが考課者(評価する側)の「主観的な視点」です。

主観的な視点であるからこそ誤差が生じやすく、その誤差は「評価誤差」と言われます。
代表的な評価誤差は以下の6つです。

これら6つの評価誤差を、順に説明していきます。

1. 【ハロー効果】 特定の評価項目が他の項目にも影響をあたえる

被考課者(評価される側)に一部の優れた項目もしくは劣った項目があると、その特定の項目以外の評価項目にも影響を与えることを「ハロー効果」といいます。
(「ハロー」とは「後光」のこと)

ハロー効果

これは人事考課に限らず、社会の様々なところでみられる現象ですよね。
(「有名な会社の◯◯社長が言っているんだから間違いない」のような)

具体例としては、被考課者の「仕事が早い」という優れた点が、「仕事の質」という項目に対して好影響を与えてしまうことなどが挙げられます。

ハロー効果を避けるためには、評価項目とその評価項目が「具体的に何を評価するのか」をしっかりと認識することが必要です。

2. 【期末効果】 最近の出来事ほど強く覚えていて正しい考課時期にならない

「期末効果」とは、評価を確定する時期(期末)に近い出来事ほど強く記憶に残ってしまい、そのイメージで評価してしまうため、期間全体としての評価になっていないことをいいます。

例えば、人事考課の対象期間が半年〜1年など、長期にわたる場合に多くなりがちな評価誤差です。

期末効果

具体例としては、「3か月前に優秀な実績を上げたのに先月に大きなミスをしてしまい、先月の印象だけで評価を決めらていること」等が挙げられます。

考課者にはミスのイメージが強く残ってしまい、優秀な成績を上げたことの印象が薄れ、適正に評価されていないということですね・・・。

期末効果を回避するためには、いつどんな出来事(成功・失敗)があり、その際にどんな評価をしたかをしっかり、記録していくことが必要です。

3. 【寛大化傾向】 実際よりも高い評価をしてしまう

「寛大化傾向」とは、被考課者への同情、または考課者自身の自信の無さなどが原因で、実際よりも高い評価をしてしまうことです。

寛大化傾向

簡単に言えば、全体的に甘い評価をすること。

寛大化傾向は、評価方法に以下の「序列法」や「人物比較法」を用いることで回避しやすくなります。

  • 序列法・・・被考課者を総合的に順位づけて評価する方法
  • 人物比較法・・・被考課者の中からモデルとなる人物を選び、その人物と相対比較して評価する方法

4. 【中心化(平均化)傾向】 評価結果が平均に集中して、優劣が出ない

「中心化傾向」または「平均化傾向」とは、評価が平均値あたりに集中し、優劣の差がほとんで出ないことをいいます。

平均化(中心化傾向)

例えば、定量的な5段階評価の場合において、ほとんどの評価が3に集中し、差がついていないことなどが挙げられます。 
(「寛大化傾向」が全体的に甘めの評価になるのに対し、「中心化(平均化)傾向」は全体的に平均に集まる評価になる)

「中心化(平均化)傾向」は、考課者の怠慢であったり、被考課者のスキルが理解できず、正当な評価をできない場合に発生します。

回避・緩和の方法として、具体的な行動や態度に関するチェックリストをつくって評価する「プロブスト法(人物明細書法)」などがあります。

プロブスト法(人物明細書法)の例

【参考】 プロブスト法 | 組織・人事用語集

5. 【対比誤差】 自分と被考課者で比較して評価してしまう

「対比誤差」とは、考課者が自分と被考課者とを比較し、自分が苦手な部分については実際よりも良く評価し、逆に自分が得意な点については必要以上に悪く評価してしまうことを言います。

専門的なスキルを要する部署などの人事考課で、陥りやすいと思われます。

対比誤差

対比誤差は、人事考課の項目や手順を全員に公開したり、「多面評価(上司以外に同僚、部下、他部署、取引先、顧客などから意見を聞く評価)を取り入れることによって回避・緩和することができます。

6. 【理論的誤差】 似たような評価項目の区別がつかずに同一の評価にしてしまう

「理論的誤差」とは、同じような評価項目がある場合に、それらの項目の区別がつかずに同一の評価をしてしまうことです。

論理的誤差

例えば、以下の2つの評価項目において、本来別々の評価内容なのに、同じものとして同一の評価をしてしまいます。

  • 積極性を持って仕事に取り組んでいるか
  • 責任感を持って仕事に取り組んでいるか

理論的誤差を回避・緩和するためには、その評価項目が「具体的に何を評価するのか」を考課者がしっかり認識することが大切です。


以上、人を評価する時にハマりやすい6つの評価誤差をお伝えしました。

人間が人間を評価する以上、人事考課に主観的な視点が入ってしまうのは避けられません。

しかし、考課者はこの記事にあげた6つの内容を予め意識しておくことで、その主観的な視点を少し改められるかもしれません。

なお、本文内でもいくつか紹介しましたが、評価誤差を回避・緩和するための方法としては以下のようなものがあるので、合わせて紹介しておきます。

多面評価

人間、相手によって態度や見せている部分などは違って当たり前なので、「上司や特定の人間に見せる一面」以外も評価しようとする制度です。

上司以外に、同僚、部下、他部署、取引先、顧客などからも意見を聞き、評価に取り入れていくことで、偏った評価を回避します。

考課者を訓練する

公平・公正な評価を行えるようにするために、以下のような目的で考課者を訓練します。

  • 人事考課の意義や目的、ルールなど、人事考課に対する認識を考課者間で統一する
  • 被考課者の業績、能力、態度などを正確に評価するための分析力や、評価の根拠を被考課者に適切に伝えるためのコミニケーション能力の向上を計る
人事考課を公開する
人事考課の項目や手順を公開し、結果は本人にフィードバックします。
(フィードバックで考課の根拠も伝え納得性を高めるとともに、考課者が向上すべき能力や今後の目標を話しあえば、人材育成に結びつけられる)

私的には、人事考課は数値化できるものは極力数値化し、何に対してどれぐらいの評価を受けているのかをキッチリと提示しつつも、主観にならないよう、様々な人の主観を集めて「客観」にするのが大切だと感じます。

そうすることで、考課者、被考課者、そして組織全体として納得のいく「人事考課」へと繋がっていくのではないでしょうか。
この記事で伝えたいことはそれくらいです。